ヒゲとボイン
シネフィルWOWOW「クレオパトラ」。アニメラマではいちばん出来がいいと言うか、随一の手塚治虫っぽさと、ギャグと劇画を絶妙に融合させた作画で何べん観ても面白い、バツグンに好みの傑作アニメ。無論、小島功のクレオパトラと、いまだに全曲集が出ないのが不思議でならない冨田勲の音楽も最高。この時代からホモ役が板についてる野沢のなっちゃん(どう見てもシーザーはドメルでオクタビアヌスはミル)も最高。2001年みたいな大仰なオープニングからテレビアニメみたいなエンディングの落差も最高。とにかく最高。1970年。あと予告編観るとカットされてるシーンが多いのがいかにも手塚先生っぽい。
原民喜「夏の花・心願の国」読了。教科書かなんかで読んだ覚えがある、被爆直後の広島を描いた「夏の花」と、その前後の散文集。圧倒的な「夏の花」から段々観念的に過ぎてきて、巻末で表題の「心願の国」になると何を書いているのかよくワカランようになる。日本文学史上最も美しい散文集が、全編息が詰まりそうで、読了してほっとするのはいかがなものか。
野坂昭如「ひとでなし」読了。何十年も前の出来事をこれほど精緻に綴れる記憶力に驚かされるが、流石の野坂も老境に臨んでは筆致に迫力がないのは如何ともし難い。ジブリの宣伝相的には聞かなかったことにしたいだろう、かの「蛍の墓」を完全なフィクションと言い切ってるのが面白かった。
コーネリアス
「世界イデッシュ短編選」読了。ポグロムやホロコーストを背景に自然、陰惨な作品が多いうえ、織り交ぜられる枠外の幻想譚に読後感がまったく定まらない。そのなかで「カフェテリア」と「泥人形メフル」が辛うじて印象に残る。
キャラが揃いも揃って嫌なやつがデフォルトのP.A.WORKSにして全員、好感度が高いのに毎回びっくりする「天晴爛漫」と、同じく渡辺信一郎の「キャロル&チューズディ」を観てるとベタな展開の普遍的な面白さを改めて痛感する。作画や演出が先鋭化してる当節ならことさらに。前者は少ないながらも女の子も最高で、頑張っていただきたい。
あといまさら「ソウナンですか?」がとても面白いので単行本まで揃えてみたら、アニメより原作のが絵が可愛くて面白かったのは問題ではないのかと。
ノエミ
井上靖「天平の甍」読了。知人からもらった本で遣唐使たちの大冒険譚。歴史は日本史も世界史もさっぱりだったけど、井上靖の圧倒的な文章力でキャラクターの書き分けも鮮やかに、もとよりドラマチックな史実が最高に盛り上がって、全然まったく期待してなかったぶんも非常に面白かった。上梓から30年以上経って80年代に公開された映画もいつか観てみたい。
クローディア・グレイ「円環世界の少女戦士」も読了。こちらは異星の少女戦士とアンドロイドの青年の冒険譚。同じくハヤカワの青背の「鋼鉄都市」シリーズをラノベにしたみたいな展開。でも創造主と念願の再会を果たしたアンドロイドの絶望からヒロインへの慕情が確かになる流れは良かった。ふたりが安易に再会しないラストも上手い。