烏と百舌

ここ三年の恒例の紀州行。今年は(たぶんあんまり聞かない)くじらの博物館メインで那智勝浦に投宿。当然みたいに那智大社にも足を延ばしてみたけど、モスキラス戦でお馴染みの境内が思ってたひゃくまんばいくらい狭くてびっくりした。就中一文字が変身を解く鳥居をそれと思わず探し回ったくらい。画像だとえらい広く見えるなおい!でも観光客に土産物屋がずらり並んでなお霊峰の佇まいの熊野三山はさすが。とまれ今年も実に楽しかった。また一年頑張ろう。



 

アルケロン

ヤコベッティが近年まで存命だったのと同じくらいラクエル・ウェルチが存命だったことにまずビックリだけど、「恐竜100万年」は気絶しそうなほどくだらないし、「ミクロの決死圏」はプロティユース号とドナルド・プレゼンスを観る映画だしで、ラクエル・ウェルチが結構どうでもいい自分には世間の騒ぎっぷりにさらにビックリしている。

一直線とはなにか

なかむらたかしの絵が心から嫌いだったんで観たことなかったATX未来警察ウラシマン。全50話。オープニングで下っ端ハスラーとばかり思ってたルードビッヒが実はネクライム(笑)次期総統と知ってびっくりしたが、どう見ても好きになれないルードビッヒを視聴者全員が好きでないとおかしい前提で作ってる作劇はいかがなものか。扱いに困って始終ぞんざいだったリュウの用途不明の超能力が終盤唐突にクローズアップされるのも謎。ガッチャマン2の池田勝よろしく神谷明がひとりで頑張ってたけど、きっぱり真下耕一はダメだ。

 

年末に相棒から貸してもらったと言うか押し付けられたと言うか、「少年の街ZF」全巻と「柔道一直線」完全版を読了。前者は小池一夫のうんちくが功を奏して長丁場でも結構納得いく展開になってたけど、オチは些か唐突過ぎ。後者は怪柔道家が続々登場する仮面ライダーみたいなテレビシリーズを丁寧に描いてる印象で、しかしあとからあとから登場する強豪らにはやっぱりうんざりするついでに「空手戦争」みたいな終盤は梶原作品らしくきっちりヤクザも登場する。でもまあ梶原一騎まるだしの鬼車の過去ばなし(丸井君の立場はなくなるけど)と大完結編はシャレでないけど簡潔でよかったのでよしとする。キャラクターはテレビシリーズで岸田森が演じた香川先生が出色だと思う。

平和の戦士S26号!

オタク終活「トリプルファイター」全26話。若槻文三のインテリジェンスな文芸が兎に角、最高で、藤川桂介なんか端から論外、深刻な筆致でトクサツファンに人気の高際和雄ですらその足下には遠く及ばず、パリ本部、アパッシュ、テロル、オルリー空港にミラージュと、初代ウルトラマン以来のヨーロピアンな雰囲気も文句なし。トリプルに比べたら「マイティジャック」(オリジナルの若槻脚本は悪くなかったけど)なんて鼻くそ同然の極上のエスエフ・スパイアクション。巨大ロボット・トリプルファイターも最高にカッコよく、安藤・鈴木・大塚の助監あがりらしいアバンギャルドな演出も冴えて、トクサツはアイデアにセンスだと改めて痛感する。間違いなくオール円谷作品でも随一の完成度と目するが、あえて残念だったのは終盤のデーモン怪人が中盤までのそれに比べて「デザイン」が張り切りすぎてカッコ悪くなったことくらい。ちなみに関西人はこの番組のおかげさま、ウルトラセブンが前座番組である印象がいまだに払拭できない。サットバギーの初登場シーンはマックイーンの「華麗なる賭け」のオマージュだと思うのは余談。

ダイナマーイト!どんどん!

徹底した不条理を描いて毎週の楽しみだったATXアキバ冥途戦争」が圧巻の最終回をもって終わってしまったが、こんな凄いアニメを作れる人がいるならまだまだアニメも捨てたもんではないのではないか。あと放送中は存在すら知らなかったATXワンダーエッグプライオリティ」は、白日夢もいいところの異世界ものが跋扈するアニメ市場でキビシー現実描いて受けるはずもなく、これも出来のいいエスエフだったのに残念。男性教師が本当にいい人だったのは野島伸司セルフパロディだったのかしらん。あとATXと言えば「決断」は今回も川上の最終回がなかった。これも残念。

コールフィールド

徳永直「太陽のない街プロレタリア文学にしてはやたら快活な筆致で「蟹工船」より面白かった。巻末の作者自身の回顧録も良かった。ヘミングウェイ海流のなかの島々・上下」楽しみにしてたけどあんまり面白くなかった。流石生前出版しなかっただけのことはあると言うか、名匠ヘミングウェイにもハズレがあるとひとりごちる。エーリヒ・ケストナー終戦日記一九四五」あの「ふたりのロッテ」のケストナー終戦間際の日記。日本のそれと比べるとドイツ終戦前夜は恐ろしく暢気でびっくりする。ボーヴォワール「人はすべて死す・上下」序盤でしまったと思った本は大概面白くなる不思議。これもその一冊。妙薬で不死になった主人公が世紀を跨いで人の生き様を問う空想譚。ラストはスティーブン・キングが「グリーンマイル」でパクってる。アンドレ・ブルトン「ナジャ」30年ぶりにブルトン読んだけど「シュール・リアリズム宣言」に比べると遥かに分かり易い。口絵が多いから?三好徹「チェ・ゲバラ伝・増補版」等身大のゲバラの生き様と広島を巡るエピソードが面白かった。辻邦生「異邦にて」ショッキングな「洪水の終わり」がこれにも所収されててびっくりする。よほどの自信作なのかしらん。「ある晩年」は海外文学のようだった。サリンジャーキャッチャー・イン・ザ・ライ村上春樹の翻訳は好きだけどこれは白水社のが良かったと思ったらこれも白水社だった。ライ麦畑は白水社の独占なのか?マンハッタンの自然史博物館のくだりは何度読んでもいい。あと例によって現代日本から消えた大人の息遣いが横溢してうっとりする開高健の「短篇選」「サイゴンの十字架」「日本三文オペラ」など。帰りの電車でどんなに疲れてても開高健の本だけは眠くならない不思議。